韓国の渋谷系、或いは韓国の冨田ラボを知っていますか
Thank You
アーティスト名: TOY(토이)
日本や欧米の音楽だけが、日本人の楽しめる音楽ではない。近場の韓国で見つけたTOY(토이)。さながら日本で言うと冨田ラボのようなスタイルで活動している彼の、特に日本人が聴いてハマれるアルバムをご紹介したい。
1. You [Intro]
彼の作品を日本ですべて入手するのは難しいのだが、今作以前のものを探してみると、ピアノ弾き語りの静かな曲が多く、何となく昔の韓国の歌、というイメージがあった。この曲は同様の雰囲気をまといながらも、この後に続く曲のバラエティーに富んだ方向性を見せるのを焦らしているようで楽しい。ちなみにTOY(토이)は、ユ・ヨヒルのソロユニット。ゲストヴォーカルを多数招いてアルバムを完成させる姿は、日本で言うと富田ラボと重なる。
2. Bon Voyage
1曲目での焦らしの後は、レコードの針を落として船出が始まる。打ち込みのビートに合わせながら女性ボーカルが高低行ったり来たり、アンニュイな雰囲気を持ちながら歌っている。最後のメロディーがループして頭に残る。
3. 나는 달(私は月)
印象的なキーボードのリフの後、8ビートのバンドサウンドに声が乗る。男性なのか女性なのか微妙な声域だ。特に情報の薄い音源を聴いていると、この辺はすべて想像で補って聴くわけで、得体の知れないものを味わう面白さがある。
4. ハッピーエンド(해피엔드)
本国ではどうかわからないが、僕がこのアルバムをリリースするとすればこの曲をシングルにするだろう。このTOYが冨田ラボのイメージと書いたのも、この曲を最初に聴いたからだと思う。コードの運びや、楽器構成、コーラスワークなどはきっと参考にしたんだろうな、と思うくらいよく似ている。Youtubeで検索すると面白いのか滑稽なのかよく分からないPVが見れる。
5. 熱いさよなら(뜨거운 안녕)
さながら90年代前半のJ-POP。米米CLUBを思い出してしまうのはカスタネットの響きのせいだろうか。サビ前の女性の合いの手的な下降するコーラス、サビ部分のコーラスも楽しく、間奏部分の音響も凝っている。何故か思い浮かぶのは小学校の頃家の隣の保育園のバザーで流れていたBGM。ノスタルジック満載である。
6. 本日ソウルはずっと晴れ(오늘 서울 하늘은 하루 종일 맑음)
エレピの柔らかいメロディー、そして陰鬱な女性のボーカルが始まる。拙い朝鮮語(韓国語)の知識を使ってネットで歌詞を調べたのだが、どうやら別れの歌である。あなたがいなくなった後、私は1人、ソウルは雪が降った後に快晴、見た渡すように青い空。あなたに似た人を見つけ、思い出が蘇る。もう一度あなたに会いたい。おおよそこんな意味であるが、歌詞が分からなくてもウエットな雰囲気なのはよく伝わる。ちなみに、心象風景とは裏腹な天気、というのは個人的に大好きなシチュエーションである。
7. かすめる(스치다 )[Interlude]
後半のバラード、ゆったりな曲に繋いでいくかのようなピアノのインタールード。
8. クリスマスカード(크리스마스 카드)
槇原敬之かSMAP、あるいは広瀬香美ですよね?そしてクリスマスの歌ですよね?と予備情報なしで言えるほどのどこから聴いてもJ-POPな曲。頭の中でそれらを合成したPVが作れてしまう。似ていることをとやかく言うのではなく、それだけ日本と韓国で消費されるポップスには共通点があることの裏付けのような曲だと思っている。
9. 娘に送る歌(딸에게 보내는 노래)
どの国でも子供は親にとってかけがえのない宝である。その気持は歌にしても足りないくらいである。そんなこと分かっていたはずで、英語の歌もちろん日本の歌でその事実は確かめていたのに、K-POPでそれを聞くとその思いを新たにできるように思う。希望を絶やさずに、辛いことがあったら思い出して欲しいと歌われる歌詞は、僕の好きなキリンジの「星座を睫毛にひっかけて」にも通じる。素敵な歌である。
10. すべての荷物を私に(그대, 모든 짐을 내게)
ガットギター弾き語り。君の足取りを重くさせる荷物を、僕に渡してくれないか、というような曲である。暖炉の前で囁くような歌で、これまでのアルバムの延長にあるような曲。
11. フランジファニー(프랑지파니)
ほぼインスト。後半から聴こえてくる口笛とボーカルが、そこはかとなく異国情緒を思わせる。
12. 私は月(투명인간)
大人しい曲が続いた後は、打ち込みのビートに合わせてゆるいダンスミュージック。軽く体をゆらゆら動かすだけで、停滞していた空気が動き出すような柔らかい明るさを持った曲。ジョギングや夜の散歩に聴きたい。
13. さようなら二十歳(안녕 스무살)
サニーデイ・サービスの「太陽と雨のメロディ」のような、ゆったりとしたテンポでバンドサウンド。アコースティックギターが刻むコードの響き、だんだん高揚するサビのメロディーが心地よい。
14. 挨拶(인사)
ピアノ弾き語りで歌い上げる1曲。残念ながら歌詞が分からないので全く掴めないが、過去に別れてしまった恋人を思い出にしつつも、君に再会したら僕はきっと優しく挨拶するよ、あんなに大切に思った相手だからね。とでも言ってくれていそうな熱唱。言葉が分からなくてもポップスのフォーマットに共通点があるから、なんとなく補完ができるのも同じアジアのポップスだからだろう、と勝手に納得してしまっているのだが。
15. You
1曲目のリフレイン。編成はジャズからストリングスを加え、映画のラストシーンのようで荘厳に終わる。
音楽の趣味でマニアックになりたい。僕は常々そう思っていてCDを買い漁ったりしたが、結局行き着いたのは、多様な音楽性を守備範囲にすることではなく、メロディーとコードに個性のあるポップスを世界中から探すというスタイルだった。韓国と日本は音楽面ではまだ心理的距離があるが、いざ近づいてみると物理的距離が近いだけあり、似た方向性を持っているのに気づいてとても面白く感じている。TOY(토이)は比較的聴きやすいのでぜひこのアルバムは自分で聴いてみていただきたい。
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