雪に埋もれて過去の記憶を取り戻すような傑作
ゆめ
アーティスト名: Lamp
Lampは複雑怪奇な進行を持ちながらも、美しいメロディーやハーモニーを多用する日本のバンドだ。この「ゆめ」は間違いなく現時点での最高傑作と言い切れる。なお、本人のライナーノーツも出ているが、敢えてそこを参照せずにライナーノーツを書いてみる。
1. シンフォニー
アルバム1曲目は、いきなりKing Crimsonの「The Court Of The Crimson King」を思わせるプログレのイントロで始まる。男女混成のボーカルスタイルとシンセサイザーが交互にメロディーを繋いでいく。Lampは複雑怪奇。そう書いたのは、別のアルバムで「1度も同じメロディーが繰り返されない」曲を聴いたことがあるからだ。この曲はそうではないが、サビとサビの間に柔らかいメロディーが続くので、サビがどこだかちょっと分からなくなる。寒い寒い、しかしながら穏やかな夜に部屋でじっとしながら聴いていたい。
2. A都市の秋
榊原香保里の少し鼻にかかったような歌声と、艶消し処理を行ったような篭ったバンドサウンドにブラスやストリングスが乗っているのが面白い。サビ部分で永井祐介も歌唱に加わるのだが、後ろで重厚なコーラスが連なっており心地が良い。どことなくサスペンス映画のBGMのようでもある。
3. ため息の行方
榊原香保里の息遣いまで聴こえてくるボーカルで始まるゆったりしたバラード。サビ部分でゲストボーカルの新川忠にバトンタッチかと思いきや、そのままデュエットとなるのだけど、間を縫うキーボードの音が印象的。2曲目もそうだが、どこか上品なジャズのステージで聴いているような絵が浮かぶ。
4. 6号室
とてもロマンチックな雰囲気の曲。オクターブ下のユニゾンで歌われるサビが優しい。ハープっぽい音、ビブラフォン、そして間奏にはなんだか留守電に残されたようなメッセージも聴こえてくる。
5. 空はグレー
ボーカルのメロディーを追いかけるようにバンドサウンドが休符を大切にしながら演奏され、この曲は始まる。「マフラーを巻いて」というところで、首に巻かれるマフラーを再現するような音作りがされていたり、「煙草に火をつけて スーーーーー」と、息遣いまで音楽のひとつとして響かせたり、工夫に余念がない。どことなく、サニーデイ・サービスを思い出させる。
6. 渚アラモード
クリスマスセールのCMに使われてもいいような、或いは冬の渋滞した海沿い・高速道路で聴きたい楽しげな曲。全体的に鍵盤の音が生かされたアレンジで、サビは転調して一層幸せそうな恋人が浮かぶ。「いつまでも続いていく青い風景」。ぴったりの歌詞。
7. 残像のスケッチ
歌詞に書かれている通り、雨脚の強まったおもてで聴きたい1曲。「約束の6時半 駅前でひとり待ちぼうけ」から後に続くサビ部分が、これまたプログレのにおいを放つのは、ベースとギターのユニゾンフレーズゆえだろうか。ブラジル音楽やジャズの影響がLampの音楽性に色濃く出ていることは言うまでもないけれど、このアルバムは全体的にプログレの影響が強く出ているように感じる。
8. 二人のいた風景
良い意味で、メジャーなミュージシャンであるaikoが書いたかのような歌詞だな、と思った。「今はまだあなたを思い出にしたくはないの もう戻らないこと分かっているわ けれど」だから。くよくよしていることそのものを歌い切る女性目線の歌詞が楽しい。サウンドはシティーポップそのものであるが、進行はやっぱりLampは一筋縄ではいかない。
9. 静かに朝は
はっぴいえんどのような雰囲気で始まる。このアルバムの中ではもっともシンプルで落ち着いた曲かもしれない。アコーディオンの彩り、ギターのロウポジションで鳴らしているリフ、乾いたドラムの音が心地よい。うっすら後ろで聴こえているキーボードも耳に残る。
10. さち子
このアルバムからシングルカットをしようとすれば、間違いなく1曲目の「シンフォニー」かこの「さち子」である。8分の6拍子にのせて、アクセントを少しずつずらしながら流れる演奏に、「海辺を走る貨物列車が運んできたメランコリック」「風に飛んだ麦わら帽子の影を追いかけた」という歌詞(帽子ではなく、帽子の影を追いかけたのか!?)実に詩人のような佇まいの曲である。
1曲1曲を解説するのはなかなかに難しい。とりわけ「ゆめ」においては。アルバムを1枚通して1曲と言えてしまいそう。Lampにしては珍しくゲストミュージシャンを複数招いており、一部は北園みなみにアレンジを丸投げしている(らしい)にもかかわらず、統一感・地続き感を携えているし、一編の映画をシーン別に切り取っているように感じられる。リリースされたのが記憶によれば2月頃で、東京では大雪が降っていて、足を雪に埋めながら、わざわざCDを買いに出かけたことを覚えているからか、冬のイメージを感じ取っていたが、今回聴き直してみると「7月」とか、「夏の終わりの」とか、季節については冬ばかりというわけではなかった。いずれにせよ心に染み渡る名盤である。
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